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         平成24年度  ファカルティ・セミナー

                       (Faculty Seminar)

 

 

日 時 : 201267()  16:3018:00

場 所 : 第三学群F棟 3F1102

講演者 : 伊藤 幹夫 [慶應義塾大学経済学部 ]

司会者 : 石川 竜一郎

演 題 : 推論プロセスとしての反照的均衡

 

 

 

                            abstract

 

J.Rawlsが主著「正義論」で用いて以来,倫理学・政治哲学の分野における正当化の方法として知られるようになった反照的均衡が,本来合理的な見解変更の規準として考え出されたことを再確認する.次いで,D.Humeによる懐疑論から始まる伝統的な帰納的推論に関する論争を含む,科学哲学における様々な議論を考える場合に,この観点から整理された反照的均衡が大きな役割を果たすことを示す.また,反照的均衡の概念の形式的な特徴づけも行う.

論文では,まず実証科学研究における推論(reasoning)に関する哲学的な基本事項を,この分野について必ずしも詳しくない読者の便宜を考えて整理する.具体的には,帰納的推論に関するD.Humeの懐疑・批判と,それに対して様々な論者がどのように考えてきたかを簡単に整理する.次いで,伝統的に語られてきた演繹的な推論と帰納的な推論に関して,多くの論者が抱える問題点を指摘する.さらに反照的均衡の基本的なアイデアがGoodmanによる推論規則の正当化による議論にあることを提示する.このこと自体は新しいことではないが,Goodmanの,ある意味で健全な折衷主義ともいえるアイデアを解説し,その倫理学・政治学への応用の典型例が反照的均衡であったことを確認し,実証科学研究に応用される場合,哲学における認識論(Epistemology)に適用された場合,どうなるかも検討する.また,Popperの反証主義・Lakatosの研究計画との関連にふれる.最後に,形式的な形で反照的均衡を表現し,経済学における一般均衡理論やゲーム理論の数理的な均衡概念のアナロジーとして哲学的な反照的均衡を特徴づける.こうした一見,意味のない形式化をすることによって,反照的均衡をめぐる論点がある程度整理されることをみる.