ピアノ・ソナタとブラインド

ノバホールのホワイエで、岩村かおるさんのフォルテピアノからモーツアルトのイ長調のピアノ・ソナタが流れ出すと、まだ明けきらない朝の薄暗い室内に、そこだけ外の光を受けて縞模様に浮かぶ水色のブラインドが目の前に見えてきました。12年前の入院中、一人朝早く目が覚めたときには相部屋の方に迷惑をかけないようにと、枕元に置いたCDプレーヤーに手を伸ばし、いつも内田光子さんのモーツアルト・ピアノ・ソナタ全集を聞いていました。そうしているうちに朝日が昇り、確か西に向いていたはずの窓にかけられた水色のブラインドも徐々に薄ぼんやりとしてきます。体から幾本かドレインパイプが垂れ下がり、点滴の管が繋がっている不快感や、元気になれるのだろうかといった漠とした将来に対する不安があったはずなのですが、なぜか記憶に残っているのは明けつつある空の明るさを写し始めたブラインドの縞模様とピアノ・ソナタと、ああ、幸せだなあという気分ばかりです。