本文へジャンプInternational Development and Urban Planning Studies, Graduate School of Systems and Information Engineering, University of Tsukuba, JAPAN
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4.シリア都市の試験的分析

■ダマスカスの戦災エリアと戦災状況

 内戦の開始以来、ダマスカスでは、郊外の諸地域に加え、中心部であるクサル・サウサ、ミダン、カザズ、パレスティナ難民キャンプ、ハジャール・アル=アスワド地区で市街戦がありました。これらは、「ベースマップ」上に表示することで旧市街外の歴史的市街地、フランス時代の市街地、独立後の市街地等に分類が可能となります。修復・再生はもちろん、再開発を実施する場合でも、土地・建物の所有状況や敷地形態に合わせて対処の仕方が異なってきます。例えば、ミダンは「ダマスカス技プロ」で対象としているカナワート南地区に隣接し、19世紀までに形成された旧市街外の歴史的市街地であり、木造+日干し煉瓦による建物構造や、細かな街路網といった点にカナワート南との共通点も見られます。
 戦災状況としては、ヘリコプターによる空爆のほか、クラスター爆弾やライフル銃といった様々な兵器による建物、道路、その他インフラ等、都市の施設が全般的に破壊されていることが確認されています。概ね、ベイルートの内戦で見られた戦災状況に近似していますが、ダマスカスの住宅の特徴である木骨造のエリアでは、火災時の延焼被害は石造が主であるベイルートやアレッポの状況よりも深刻になることが危惧されます。


ダマスカスの戦災エリア (BBCニュースより)


  
カナワート南地区の典型的な日干し煉瓦造の建物(戦災前の2011年撮影)。隣家同志が壁を共有するため建て替えの際には内部構造がよくわかる。ちなみに、右側の写真の住宅はRC造に建て替えられようとしてている。


■アレッポの戦災エリア

 反体制派の拠点ともいわれるアレッポでは、ジャミリーエ、ブスタン・アル=カスル、サラフディーン、ハラブ・アル=ジャディードなど、中心市街地において市街戦があり、アレッポ城でも被害が確認されるなど、より深刻度が高いといえます。とりわけ、2012年10月には、アレッポの世界遺産として最も名高いスーク(市場)が炎上している状況が広く報道され衝撃を与えました。



産経新聞より


アル・アラビーヤより



アレッポの戦災エリア(BBCニュースより)

 さらに、これを「ベースマップ」上で見ると、たとえば戦災地「サラフ・アッディーン」は遅くとも委任統治領以降の市街地であることが判然とします(実際は独立後)。


「ベースマップ」に1930年代の古地図を表示し、青色で戦災エリアをプロット 
ボップアップウィンドウは戦災地「サーラフ・アッディーン」を示している。



■アレッポの戦災状況

 戦災状況はダマスカスと類似していますが、「アレッポ大学日本センター」のカウンターパートを通じて、現地提供の写真がより多く入手できました。写真情報及びヒアリングをもとに、戦災状況の一端を試験的に分析・整理したものが下の図です。分析の視点として、A.建物レベル、あるいは即地的な戦災状況の見極めと、その修復の方針を示すものと、B.その建物周辺の、地区レベルでのより広い復興の方針を示すもの、の二段階を設定しています。いずれも現時点では仮のものであり、戦災状況、復興の方針ともにごく簡潔に示すものに過ぎません。


現地写真に基づく戦災状況分析


 たとえば、スークで発生した火災については、一部報道ではスークは「消失」したものとされています。しかし、アレッポのスークの建物は石造が主であり、木材は扉等の一部の非構造材にしか用いられていないことを考えると、延焼により煤けてはいるものの、基本的には建物の骨格は残存しているのではないかと考えられるわけです。すなわち、建物は「再利用可」であり、ファサードの現状復旧や、壁面の煤の清浄といった処置によって再生することが可能かと思われます。ここでは、「ダマスカス技プロ」で検討中のファサード改善事業の手法、及び、ベイルートの旧市街再開発事業での壁面清浄の手法が参考となるのではないかと思います。
 また、以前の述べたように、「香辛料」「貴金属」「洋品」等といった品目別に形成されるスークは、同業者が商品の貸し借りなどで互いに助け合う同業者組合によって成り立っています。とりわけ、店舗はかつてはワクフと呼ばれる公的な賃貸物件であったもので、今日でも基本的に格安の賃貸店舗です。復興にあたっては、こうした歴史的あり方そのものに改変を加えるべきではなく、原則的には火災以前と同じ店主が復帰して、「自力再建」をすることが望ましいと思われます。そのための制度的支援が必要となると思われます。
 
 更に、ベイルートの貴重な経験の一つは、保全と開発のアンバランスでした。シリアは歴史ある国であり、歴史的市街地の保全は都市計画においてもっとも重要な課題です。しかし同時に、経済的発展の受け皿として、しっかりしたインフラに基づき開発すべき市街地も必要とされており、開発をそこに誘導・集中させることで旧市街、また旧市街外の歴史的市街地を結果的に保全することも考えるべきでしょう。たとえば、「ベースマップ」上で見て独立以後の歴史が浅い市街地は、必要によっては、大型開発の可能なエリアへと改造し、新政権の民主化の度合いを測りつつ、在外シリア人の豊富な投資を奨励する特別地区とすることも、開発・保全の双方にとって有意義な施策となるものと思われます。



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