組合せ数学セミナー
発表内容の概要


10/17(金): 八森正泰 (筑波大学 大学院システム情報工学研究科)
単体的複体のobstructionについて

単体的複体Δが性質Pを持たず,Δの頂点集合の真部分集合への制限が
すべて性質Pを持つとき,Δを性質Pのobstructionという.単体的複体
の性質としてshellability, partitionability, sequential Cohen-Macaulayness
を取り上げ,2次元の場合のobstructionを特定する結果の紹介および,
その他の議論を進めたい.

11/7(金): 山本真基 (東海大学 理学部情報数理学科)
あるPSPACE完全問題の O(2-\epsilon)^n 時間アルゴリズム

n 変数上の論理式を例題とするあるPSPACE完全問題を(厳密に)解く,
O(2-\epsilon)^n 時間アルゴリズムを提案する.NP完全問題である 3-SAT 
問題と SAT 問題において,前者には (2-c)^n 時間アルゴリズムが存在する
(for some c>0)のに対して,後者には (2-\epsilon)^n(\epsilon>0)時間
アルゴリズムの存在が知られていない.このように,NP困難な問題を厳密に
解くことを考えた場合,明らかな上界 2^n よりも(真に)よい上界を見つけ
ること,及び,そのような上界が存在するかどうかを議論することが,1つの
研究分野になっている.本研究では,あるPSPACE完全な問題が,
O(2-\epsilon)^n 時間アルゴリズム(for some \epsilon>0)を持つことを示す.
また,(多項式時間階層の)\Sigma_2 完全問題が O(2-\epsilon)^n 時間アル
ゴリズムを持つこと,及び,\Pi_2 完全問題に O(2-\epsilon)^n 時間アルゴ
リズムが存在するかどうかについて議論する.

11/14(金): 佐野 良夫 (京都大学 数理解析研究所)
グラフの競争数について

1968年J. E. Cohen は、生態学の問題と関連して、競争グラフの概念を導入した。
有向グラフ $D$ に対して、その競争グラフ $C(D)$ とは、$D$ と同じ頂点集合を
持ち、異なる2頂点 $x$ と $y$ の間に辺 $xy$ を持つのは、$(x,v)$ と $(y,v)$ 
が $D$ の有向辺であるようなある頂点 $v$ が存在するときとして、定義される
(無向)グラフのことである。

F. S. Roberts は、「どんなグラフ $G$ についても十分多くの孤立点を付け加える
ことで、 $G$ はある非巡回有向グラフの競争グラフとなる」ということに着目した。
そのような孤立点の最小の数を、グラフ $G$ の競争数と呼び、$k(G)$ で表す。
一般のグラフに対して、この競争数を求めるのは難しい問題である。
R. J. Opsut はグラフの競争数を求める計算問題はNP困難問題であることを示した。

本発表では、グラフの競争数に関する基本的な定理等をいくつか紹介した後、最近
になって発表者が得た、完全多部グラフの競争数に関する結果について述べたいと
思う。さらに時間があれば、競争数に関する他の話題にもふれたいと思う。

12/4(木): 縫田光司 (産業技術総合研究所 情報セキュリティ研究センター)
二進無限列におけるパターン出現率と擬似乱数生成器の安全性解析

近年の研究で、カオス的性質を持つロジスティック写像を応用した
擬似乱数生成アルゴリズムが提案されている。しかしその一方式には、
不適切なパラメータを選択すると出力が定常的になってしまう危険性が
あるという欠点の存在が指摘されている。話者の最近の研究では、
0と1からなる無限列におけるあるパターンの漸近的出現率に関する
組合せ論的解析を通して、ある組合せ数論的予想の成立を仮定した上での
この不適切なパラメータの割合の下界を与えた。
本発表ではこの研究結果について紹介する。

1/21(木): 柏原賢二(東京大学 大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)
任意のdeletionがshellableとなる単体的複体について

単体的複体がshellableであるとは、単体を1つづつうまい具合に足していって
構成することができるかというようなことである。今回の研究では、
任意の deletion が shellable となる単体的複体について議論する。2 次元の
単体的複体で、任意の deletion が shellable なものは、extendably shellable
であることを示した。 また、2次元の純な単体的複体で、任意の deletionが
shellableであるにも関わらずvertex decomposableでない例を見つけた。
さらに、matroid複体との関係についても議論し、予想を紹介する。

この研究は筑波大の八森正泰氏との共同研究に基づいています。


2/20(金) 14:00〜: 黒木裕介 (東芝 開発センター)
反転数を考慮したクイックソートの計算量解析

クイックソートは,期待計算量が Θ(n log n) であるが,入力によっては
最悪で Θ(n^2) の計算量を必要とする.とくに,整列済みの順列を入力した
場合に計算量が大きくなると言われている.

本研究では入力の整列度合いの指標として反転数を用いて,反転数と計算量に
ついての関連性を詳細に解析した.最悪計算量,最良計算量,期待計算量に
関して理論的な結果を得た.

本研究は岡本吉央氏 (東工大), 白幡和也氏 (豊橋技科大) との共同研究
である.

2/20(金) 16:30〜: 川村一宏 (筑波大学 数理物質科学研究科数学専攻)
Chordal graphのbox complexのホモロジー群

 本発表は上別府陽氏(筑波大学大学院数理物質科学研究科後期課程)との
共同研究に基づいています。

 有限単純グラフGの組み合わせ構造を,Gに付随して定義される単体的複体K(G)の
トポロジーを通して調べる研究がいくつか行われています。ここで考えるbox complex
B(G)もそのような複体の一つであり,Gの彩色数との関係が調べられています (Matousek-Ziegler)。
 一方でB(G)のトポロジーを知ることは一般に難しく, 上の結果にせよ彩色数の評価と
して”良い”ものかどうか, 明らかではありません。そこで「一般にB(G)の
ホモトピー型、あるいはホモロジー群は, Gのどのような性質を反映しているのか?」
という問題が生じます。
 今回の結果はchordal graph Gのbox complex B(G)について、そのホモロジー群をGの
組み合わせ的データから決めることを目標としています。
 
(1)まずchordal graph Gに対して, B(G)のホモロジー群はtorsion-free
であることが示せます。Csorba, Zivaljevicらによって、どんな自由Z_2作用を持つ
単体的複体も, 適当なグラフのbox complexと同じホモトピー型をもつことが示されてい
ます。上の結果はchordal graphのbox complexとして実現される単体的複体に対する一つ
の制限を与えるものです。

(2)chordal graphは常に極大完全部分グラフによる樹状分解を持ちます。この分解を
用いて、box complexのオイラー標数を記述することができます。この計算を行う過程に
おいて,「Gの完全部分グラフがB(G)の非自明なホモロジー類を表すのはいつか?」という
問いにある程度答えることができます。


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