Seminar Abstract 【日本の財政運営:通時的最適化を重視する視点からの評価】 ------------------------------ Speaker: 中里 透 Affiliation: 上智大学経済学部 Date and Time: 2002.11. 7 (Thu), 4:30 - 6:00 p.m. Place: 3F1136 Chair: 江口 匡太 ------------------------------ Abstract: 本稿では、通時的な予算制約のもとでの最適化という視点に留意し ながら、90年代以降の財政運営の評価を試みる。90年代にとられた 拡張的な財政政策は、景気の下支えに一定の効果が認められるもの の、その効果は限定的・一時的なものであり、財政赤字の拡大と政 府債務の累増を伴うものであった。本稿の実証分析によれば、財政 赤字の現状はかろうじて持続可能性が満たされているものの、90年 代に経済に生じたショックの大きさを考慮してもなお財政赤字の水 準は過大であり(課税平準化のもとでの最適な水準と比較して99年 度時点でプライマリー赤字が対GDP比1%程度過大)、将来に負 担を残すものであった。このような財政状況の著しい悪化は、経済 に生じたショックの大きさを物語るものであるが、それと同時に政 策運営における視野の短期化と問題の先送りが財政赤字の拡大を引 き起こした面があることも否定できない。財政政策の効果をめぐる 議論においては短期的な需要創出効果に偏った議論が行われがちで あるが、政府の通時的な予算制約と家計や企業の期待形成を明示的 に考慮に入れて分析を行うと、財政支出の増加が民間消費の減少を もたらしたり(非ケインズ効果)、非リカード的な財政政策が金融 政策のスタンスとは独立に財政面から物価の変動をもたらす可能性 が示唆される。財政赤字のサステナビリティに対する懸念から、最 近、景気対策として財政政策を活用することを手控える動きが広が っているが、このような新しい見方を踏まえて従来の政策スキーム を相対化する視点をもつことが、今後の財政運営における選択の幅 を広げるうえで有益と考えられる。